01__D3_3969x

第三回公募 “世界旅写真展” 審査総評

【第三回公募 “世界旅写真展” 審査総評】
昨年10月より作品応募を行っていました旅がテーマの公募コンテスト”第三回世界旅写真展”の審査が当ギャラリーにて行われました。こちらで審査風景と2名の審査員による総評を公開しています。


【審査総評】

審査員:竹沢うるま(以下U)、中村風詩人(以下K)
審査日程:12/15(火) 10:30〜16:00
審査行程:一次〜二次〜三次最終選考
入選者数:11名

TEXT:apart gallery / PHOTO:川口聡太(Sohta Kawaguchi)



01__D3_3969x

K|今回の審査は全体的にはどういう感じでしたか。

U|全体的にはレベルが高いなぁというのが第一印象です。みんなそれぞれ自分の主張したいことが写真に入っていたと思います。

K|主張したいことを写真で表現できているのは理想的ですね。

U|はい、ある程度自分の伝えたいことが見えてくる写真が多かったと思います。一方で、自分の主張があるのに「刷り込み」に引っ張られている人が多い印象も見受けられました。

K|それはビジュアル的に既視感を覚えるということですか。

U|そう、誰しもビジュアル的に色々なものをみています。応募者の多くも見て来た物に感化され、それを知らず知らずのうちに写真に反映してしまっているような気がします・・・。ですから、まずはそういう写真を省いていきましたね。

K|私は必ずしも他の人にビジュアルが似てしまうことは悪いことではないと思います。もちろん故意に似せるのは問題外ですが、結果的に似たものが出来るということは寧ろステップアップとして歓迎すべきことだと思います。

U|そもそもの話ですが、問題なのはビジュアルありきに主張をのせている感じがする作品が多々ありました。本来的には「主張からビジュアルを表現すべき」ところです。

K|順序の問題ですね。表現としての写真は「訴えたいことがあってこういう写真を撮った」というのが本来理想としているところです。しかし実際は「こういう写真が撮れたからこんな訴えが合う」と、いわゆる後付けすることも少なくありません。違う序列の上に出来上がった作品というのは見ていて自然とそれが現れてしまうものですね。

U|そういった作品は技術的に高いレベルがあっても早い段階で淘汰されてしまいました。

K|そうですね、今回は技術的に高いレベルの写真が一次審査で落ちるシーンもよくありました。今思えばこの傾向は第三回の大きな特徴かもしれません。これは、決して入選作品の技術が低いということではありません。最後まで残った作品はあくまで高い技術なのですが、それが執拗に表に出ている訳では無かった、という点で違いがありました。

U|何か特別目に留まった写真はありますか?

05_D3_4098
※写真1

K|この人なんか実に上手いと思います。光の選び方もとても良い・・・。(※写真1:3つの組み写真としても成立する旅の一連のシーン)何かを暗示させるようなシーンが連続してくることで、本来つながることのない場所にひとつのストーリーが生まれてくる気がします。あと先程の話に加えますが技術的に高いレベルというのは構図や瞬間だけではなく、やはりプリントのクオリティ、その善し悪しがとても大きい要素でした。

U|そう、プリントのクオリティが基準に届いていない応募者は、おそらくモニターで見ているものを作品だと思っているんじゃないかな。

K|というと、画面で見ている写真こそ写真だ、というような。

U|「プリントを作品として仕上げる」という意識が必要ですね。

K|最終的に私達審査員は、プリントを手にとって善し悪しを見定めています。ウェブ上でのアップロードで応募が出来るコンテストが増えている中、世界旅写真展はプリントを送って判断するという「プリントのもつ美しさ」にもこだわっていることはひとつ大きな特徴だと思います。

U|入選作品を見ていてもデータだけで見ていたら選ばれなかったものがありますね。組みにしてみて、ぐっと魅力が増した人も多いですよね。

K|確かにそう思います。この作品はとても光の捉え方など素晴らしいのですが、2枚が並んでその輝きが数倍にふくれあがったように感じました。

U|そうですね。

03__D3_4102
※写真2

K|ところでこういう大変強いインパクトのものも入って来ましたけど、こういった作品はどう思いますか。(※写真2:下関と掲げたヒッチハイクの人物を写した写真)

U|旅の質感には必要だと思います。大げさですけど一種のインスタレーションのような旅として良い作品だと思います。この人の経験してきた時間が作品になっていますね。そういった経験への共感という意味では、こちらも面白いですね。 (※写真3:9点並べているスナップ写真)

04_D3_4109
※写真3

K|多勢で見せる作品というのは、数打ちゃ当たるにはならないから不思議です。

U|というと?

K|送り手の気持ちを考えれば、これだけあれば数枚は良いのがあるだろう、と安直に考えることもあるかもしれませんが、実際は全く逆だと思います。1枚だけ良い写真よりも、当然10枚全てが良い写真、という方がハードルは高くなる。

U|やっぱりいらない写真というのは入れないほうがいいと思いますね。応募作品が上限枚数に満たないから仕方なく入れるようなもの。
K|それは特徴的なアドバイスかもしれません。

U|これは応募作品に入れなければ良かったのに、と苦渋の思いで落とした作品も多々ありました。代表的なものでいうと赤い椅子はやはり勿体ないように感じました。(写真4:赤い椅子のシリーズ)

06_D3_4138
※写真4

K|本当その通りだと思います。あれは何で赤い椅子のシリーズを入れたのでしょう、あのシリーズが無い方が確実に全体の完成度は高い物になりました。

U|ブラジルのもそうですけど意図が分からない。「組としてセレクトしきれなかった」印象を受けてしまいます。こういう作品ならもう少し連続的な動作として意味を成して欲しかったですね。(写真5:ブラジルのサッカーの写真)

07_D3_4142
※写真5

K|そうですね、例えば5枚無ければ表現できないもの、あるいは5枚あることで表現が深まるもの、というのは良いのですが、この写真の場合は「1枚で良いところ5枚あった」という多少散漫な印象を与えかねない恐れがあります。

U|セレクトの敗因だと思います。セレクトもその人の感覚なので、1点を選ぶだけではなく複数枚あることで、ある種その人の作家性で選ぶことに繋がりますね。結局「これかこれ、どちらかが良い」と思うものが2枚両方とも送られてきていたらそれは「選びきれなかった」ということが伝わってしまいます。

K|と言っても私はこのサッカーの作品は大変素晴らしいと思っていました。

U|そう、中村さんはとてもその写真を推してましたね。

K|はい。ですが議論の結果納得するところが多く、惜しくも選出を断念しました。写真のセレクトについてですが、全点が素晴らしいという方もいました。

U|そう、この人なんかは写真に隙が無い。(写真8:宮城県を写したモノクロームの作品群)

02__20151215153606
※写真8

K|写真に隙が無い、とても魅力的な表現ですね。ところで今回は、世界旅写真展という名前の通り「旅」についてコンテストですが、「旅写真」という視点で見直して入選作品に何かコメントはありますか。

U|僕が選んだのはその人自身の心の流れが写っているかどうかですね。それを感じるために旅をしているようなものです。例えば東京とか普段生活している所で感じる「心の流れ」があると思います。ですが、旅をしたときに自分の知らなかった場所で感じた「別の心の流れ」があると思います。そういった普段と違う「別の心の流れ」が伝わってくるものに自然と引かれてしまいました。写真のもつ役割のひとつとして、言葉で表現できないことを表すということがあると思います。つまり、写真でしか出来ないことが入っているものが魅力的でした。

K|「写真でしか出来ないことって何だろう」。これは私もとても前から頭の中にある言葉です。

U|あとは説明的・・・そう、真っ先に落選となってしまった写真は説明的なものが多かったです。「どこそこに行って来ました」という写真はやはり表現としては難しい。

K|誰しも旅にでた時、心が揺れると思います。うるまさんの言葉を借りるなら「心が流れる」。その瞬間「何を感じたかを表現する」ということが大事ですね。

05_D3_4106

K|最後に次回応募を考える方にあてて、何かメッセージを頂けますか。単純に頑張ってくださいというよりは、「旅写真というものがこう発展していくと良いんじゃないか」という範囲まで含めた言葉を期待しています。

U|第一回から審査している訳ではないですが、中村さんとのやりとりから「回を重ねる度に完成度が高くなっている」ことを感じました。

K|そうですね。毎年作品レベルが上がっていると確かに感じています。

U|それでも「刷り込みから開放された写真を見てみたい」という欲がでてきてしまいました。全く見たことのないような写真を見てみたいという欲。まるで写真という常識をひっくり返したような写真です。

K|刷り込みからの開放。奇をてらった意味ではなく、その時代にしかない写真、その時代にしかない表現・・・。

U|でもストレートに「新しい表現」というと苦になるかもしれません。僕自身新しいことは出来ませんし。やはり「自分が感じていることを表現するために、どうすれば良いのか」について考えることが大事だと思います。そこから生まれた写真が見てみたい。

K|自己表現をたった一枚の写真に落とし込む。少し哲学的なご意見です。

U|そう、まさに写真の難しさであり面白さです。

K|では、次回のご応募を考えた方には、面白さと難しさの間でモヤモヤと考えていただくことになりそうですね。

U|モヤモヤしてもらいましょう。創造はフラストレーションから生まれると思います。

K|はい。それではありがとうございました。また詳しいお話を対談イベントの時に伺いたいと思います。

U|はい、展示も楽しみにしています。よろしくお願いいたします。

※応募者の方々への審査結果については2016年1月後半に順次郵送にてご連絡させていただきます。


06_D3_4164

【審査員紹介】

竹沢うるま -URUMA TAKEZAWA -|写真左
1977年生まれ。同志社大学法学部法律学科に入学。在学中、沖縄を訪れて海の中の世界を初めて見て驚き、自身が見て感じたことを記録に残そうと写真を始める。その後、アメリカ一年滞在を経て、独学で写真を学ぶ。卒業後、 ダイビング雑誌のスタッフフォトグラファーとして水中撮影を専門とし、2004年より写真家としての活動を本格的に開始。2010年〜2012年にかけて、1021日103カ国を巡る旅を終え、現在に至る。

* Uruma は沖縄の方言で珊瑚の島という意味

| AWARD |
2014 第3回日経ナショナルジオグラフィック写真賞グランプリ

| BIBLIOGRAPHY |
「Tio’s Island」(写真:竹沢うるま 物語:池澤夏樹) 小学館 2010
「Walkabout」 小学館 2013
「The Songlines」 小学館 2015
「今」 (写真:竹沢うるま 詩:谷川俊太郎) 小学館 2015

中村風詩人 – KAZASHITO NAKAMURA -|写真右

写真家。豪州留学、オセアニア一周、西欧一周、世界一周、南太平洋諸国一周、東南アジア一周を経て、2016年現在80カ国以上へ滞在、うち仕事として約35カ国を取材。海外撮影は政府観光局パンフレットや雑誌掲載他、現地通訳やインタビュー、紀行文の執筆までを担当することも多い。日本橋三越本店「旅写真の魅力」、京成百貨店本店「旅写真講座」、豪華客船上ホール「良い写真とは」などの講演会も行う。作品は広島県の切手として発売されている。

個展「ひとつの海と」(2011)、個展「続・ひとつの海と」(2012)、グループ展東京美術館展出展(2012)、個展「音の浮力」(2013)。世界旅写真展審査員(2014,2015)。APART GALLERY&LIBRARY館長(2013)、中村風詩人写真集『ONE OCEAN』発売(2015)


K|世界旅写真展審査の前日に考えたこと
旅写真とは何だろう。その良さとは何だろう。考え尽くしてなお考える。

ストレートに考えたら「見た人が旅に出たくなる写真」なのだと思う。

それは実際そこに行くのが難しい人にとって旅を共感できる作品群だし、旅で学んだことや経験した驚き、感動を共有できる写真のこと。

それに旅の体験は常に五感だから、視覚的な魅力に加えて音がする写真、あるいは唾液がでて、触れたくなって、香りがしてくるような写真にいつもひかれる。

これに限らず審査や写真を見るときには「ずっと飾っておいて飽きないか」という「絶対的な美しさ」を常にその価値観の念頭に置いている。

何で旅写真なの?とよく聞かれるので、原点に立ち返って「何で旅に出て写真を撮るのか」考えてみた。

その答えは「そこに自分だけの景色を見つけたいから」だと思う。

それは人によってそれぞれで、ある人にはアフリカにあるし、北欧にあるし、あるいは近場にあるのかもしれない 。時間や境遇で変わるものだし、そこに自分の中の未開拓の鉱山を見つけて少しずつ削るしか埋まったものは見えてこない。

大切なのはその一角を感じたときに深く堀当てようとすることだと思う。生と死のように壮大でなくていい。追い求めた旅の顛末が写し込められていること、鉱山に埋まった何かしら光るものが少しでも写っていること、きっと旅写真を撮るのはそこに自分だけの景色を見つけたいからだと思う。

Comments are closed.